びびのままに 4

怪しい親分子分が扉の中に入り階段を上がっていった後ろ姿をみていた私は、、、やはり付いて行ってしまった。怪しいんだけれど、危ない感じがしなかったのだ。さっきのオジサンの件もあったし、ここにいる人は良い人達なのだ、と思い始めていたし、それでなんかあったらそれはそれだ!と開き直っていた。そうして、曲がった階段を登り、目の前の扉を開けたら、、、屋上だった。曇っていたので視界はわるかったけれど、目の前を見るとブルーモスクが見えた。その瞬間に「うわぁぁぁっ」と叫んでいた。それを聞いた小太り親分が嬉しそうに、またイタリア語風の巻き舌で、あれはアジアサイドとヨーロッパサイドを分けるボスポラス海峡、そしてその向こうにはそれぞれの大陸、ガラタ塔、とものすごい勢いでまくしたてた。だけれど、その巻き舌に負けないくらい、私のボルテージは急上昇だった。イスタンブールが一望できる絶景ポイントだったのだ。親分はこれを見せるつもりだったんだ。連れ去られるかも、、なんて思ってごめん、、とこころの中でつぶやいた。

雨も強くなり始めたが、風もあるので傘をさすとふっとばされそうになる。手すりも柵も無い屋上で、さらに屋根が半円状に盛り上がっているので歩くのがなかなか大変だ。それでも、親分が「あそこが一番眺めが良いぞ」と指さした場所に行くために、私は踏みしめながら歩いた。その場所に先にいって写真撮影をしていた背の高い子分二人が戻ってくるところで、「Can I help you?」と声をかけてくれて、誘拐犯に仕立てあげたことをこころの中で謝った。ふらふらだったけれど、黒海につづく海峡が見えて、そこを行き交うたくさんの船が見えて、雨のなかキュンキュンなりっぱなしだった。

ガイドブックを見ることをやめた瞬間に、ガイドブックにも多分載ってないであろうこの場所に巡り会えたことがとても嬉しかった。鈍くなってんじゃないかとおもっていた自分のアンテナや、感性や本能とといったものが、まだ大丈夫なんじゃないか、と思えた瞬間だった。いろいろあった一年だったけれど、迷ったけれど、一人だったけれど、来てよかった、大丈夫だって思えたのだ。

天気が良かったら、しばらくぼーっとそこに座っていたかったのだけれど、あまりに雨が刺さるので去ることにした。でも、気分は快晴だった。

階段を降りて、牢屋じゃなかったので鍵も開いていたので扉を開けると親分がいた。「ものすごーい良かった。ありがとう!ありがとう!」と英語と、ありったけのジェスチャーと笑顔で伝えたら、伝わったようだった。

会うベきものには、導かれて出会うのだ。ちょっと忘れてたな。